
HIDEMIサロンへようこそ。
HIDEMIという場には、言葉にならない記憶が流れています。
ここから綴るのは、その記憶のいくつかを、
小さかった私の目線や体感を通して見えていた風景とともに記したものです。
これは私個人の思い出でありながら、
この空間に刻まれた“場の記憶”でもあります。
《プレHIDEMIの物語 Vol.5》午後の診察室、そしてHIDEMIへ ― 小さな自転車が走った場所
HIDEMIサロンのセッションルームのドアの上には、
「相談室」と「診療室」と書かれた、二枚の小さなプレートが掲げられています。
父が営んでいた医院の名残。なぜかそれだけが、そっと残っているのです。
昔の診療所には、午前と午後のあいだに、長めのお昼休みがありました。
その時間、父は往診に出かけたり、事務作業や文献調べをしたり。
そして、きっと昼寝もしていたでしょうか……
けれど、もっと印象的だったのは、
その“昼の時間”に子どもたちが集まっていたことでした。
近所のお子さんが、当時は珍しかった診療所の電卓で遊んだり、
宿題を持ってやってきたり。
膝の上で、宿題をしていた子もいたそうです。
父は小児科医で、子どもが好きだったから、
そんなふうに自然と“子どもたちの居場所”になっていたのかもしれません。
そしてわたしも……診察室が大好きでした。
棚の引き出しを開けたり、薬の匂いをかいだり。
調合の重りを載せるのを手伝って、四角い薬包紙で粉薬をくるんだり。
(今思えば、あれは三角折りの包み方ですね。)
その空間に“いること”が、なによりも楽しかったのです。
妹は、なぜか診察室に寄りつかず。
けれど今では、父のあとを継いで医師をしている――
それもまた、不思議なことです。
そんな、医師でもないわたしが、父の医院のあとを引き継ぎ、
HIDEMIを“都市の静域”――整え、学び、ひろがり、出会う場所――として
新たにひらこうとしている。
その原点にあるのが、「相談室」という札。
それは、あの昼の診察室の記憶――
静かで、開かれていて、でもなにかあたたかいものが流れていた時間を、
思い出させてくれるような気がします。
相談-
1対1の存在の声を、ことばにならない響きとして聴くこと。
HIDEMIサロンは、この「相談室」の札が掲げられた
小さなセッションルームから始まりました。
9月以降、新しいHIDEMIのかたちが始まっても、
HIDEMIのセッションルームには、
変わらず「相談室」の札が掲げられていると思います。
11年前の記録になりますが、父の診察室だったこの場所で、
息子が小さな自転車で走り回っていたとき。
それは、もう使われていない空間――けれど、
どこかに“まだ息づいていたもの”があったのかもしれません。
過ぎていく時間と、受け継がれていく場所。
HIDEMIサロンのはじまりには、
そんな“声にならない記憶”も、静かに流れていたような気がしています。
そして、かっての診察室で撮った古い一枚の写真。
父と、わたしと妹。
おすまし顔のようで、どこかくつろいでいて、
医療と暮らしが、まだ自然につながっていた時代の空気が写っています。


